Biodiversity 生物多様性への取組
当社は、「事業活動が生物多様性の恩恵を深く享受し、事業活動に伴う環境負荷が生物多様性に様々な影響を与え得ることを認識するとともに、自然関連の依存や影響を緩和する」ことを目指して、自然関連課題に関する様々な取組を行っています。
当社は、2022年12月の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組※1」により方向性が示された「ネイチャーポジティブ※2」を支持し、また2023年9月に公表されたTNFD ※3(Task Force on Nature-Related Financial Disclosures)の提言については、中期環境計画(2024~2026年度)において、「適時適切な情報開示と積極的な対話を行う」という目標を掲げ、「ガバナンス」「戦略」「リスクと影響の管理」「指標と目標」の4つの視点で、LEAPアプローチ ※4 を参照して分析・評価を行い、ステークホルダーへの情報開示に向けた取組を開始しています。
- ※12030年までに生物多様性の損失を止め回復させるための国際目標を定めた、国連生物多様性条約の新たな世界的枠組み。
- ※2自然の劣化を止め、2030年までに生物多様性を回復軌道に乗せ、2050年までに自然を豊かな状態へ転換することを目指す国際的な目標のこと。
- ※3企業や金融機関が自然関連リスク・機会を「財務情報」として把握・開示するための国際フレームワークを構築する国際イニシアチブ。
- ※4自然との接点、依存関係、インパクト・リスク・機会など、自然関連課題の評価の統合的アプローチとしてTNFDにより開発された手法。
TNFD提言に基づく情報開示
一般要件
| 項目名 | 説明 |
|---|---|
| 1. マテリアリティの適用 | ダブルマテリアリティの考え方により、自然が企業に与える影響と企業活動が自然に与える影響を評価しました。 |
| 2. 開示のスコープ | 当社グループの直接操業におけるリスクを評価しました。今後、バリューチェーン上流および下流に評価範囲を拡大するとともに、機会についても評価する予定です。 |
| 3. 自然関連課題がある地域 | 当社グループの生産・研究拠点において、生物多様性にとって重要な地域および物理的水リスクが高い地域を要注意地域として特定しました。 |
| 4. 他のサステナビリティ関連の開示との統合 | 気候変動対策と自然関連課題への対策には、相乗効果やトレードオフの関係があることを認識しています。今後はTCFD開示との統合や相互関係の評価も検討する予定です。 |
| 5. 考慮された時間軸 | リスクマネジメント体制で実施するリスクアセスメントにおける「可能性(発生頻度)」に合わせ、短期(1年)、中期(3年)、長期(10年)を設定しています。 |
| 6. 先住民族、地域社会と影響を受けるステークホルダーとのエンゲージメント | 当社グループは、「人権の尊重に関する基本方針」を策定し、バリューチェーン全体における人権侵害の回避に努めており、環境への取組においても、地域社会やステークホルダーに不利益となる人権影響を生じさせないよう、本基本方針の浸透を進めています。
当社グループの基本方針および人権尊重の取組の詳細は「人権」の “人権の尊重に関する基本方針” をご覧ください。 |
ガバナンス
当社の自然関連課題に関するガバナンスは、原則 TCFDと同様に、取締役会の監督のもと、社長が統括するリスクマネジメント体制を構築し、自然関連リスク・機会を含む業務活動リスクを統合的に管理しています。すなわち、コーポレートガバナンス担当執行役員のもとに事務局を設置し、国内外のグループ会社および全社部門を対象に毎年度リスクアセスメントを実施し、その結果を踏まえて対策の策定・実行・評価を行います。内容は年1回以上、取締役会に報告され、重要事項について議論・指示が行われます。生物多様性保全など部門横断的な課題およびダブルマテリアリティの視点として事業活動が自然に与える影響の評価は、環境管理体制のもと環境安全委員会で検討し、中長期環境目標に反映しています。取締役会は、これらの取組についてサステナビリティ活動の一部として報告を受け、提言・指示を行うことで監督しています。
リスクマネジメント推進体制と環境管理体制の関わりおよび用語の注釈については、「TCFD提言に基づく情報開示(気候変動対応)」の “ガバナンス” をご覧ください。
自然課題への対応に際して人権への配慮が必要となる場合、当社グループは「人権の尊重に関する基本方針」に基づき、国際的に承認された人権原則を尊重しつつ、関連するリスクの防止・軽減に取り組んでいます。当社グループは、バリューチェーン全体における人権侵害の回避に努めており、環境への取組においても、地域社会やステークホルダーに不利益となる人権影響を生じさせないよう、本基本方針の浸透を進めています。詳細は、当社グループ人権方針をご参照ください。
当社グループの基本方針の詳細は「人権」の “人権の尊重に関する基本方針” をご覧ください。
戦略
TNFDが推奨するLEAPアプローチに沿って、下図の手順で評価しました。
すなわち、当社は ENCORE※5 を用いてバリューチェーン全体の自然への「依存」と「影響」を評価し、重要度の高い領域を可視化しました。直接操業(医薬品製造)では、水資源(依存)・生物資源(依存)・汚染(影響)を重要課題として特定し、短期・中期・長期の潜在リスクを整理しました。また、Biodiversity Risk Filter※6と Aqueduct※7により生産・研究5拠点を評価し、全5拠点を優先地域として選定しました。特定したこれらのリスクに対して、これまでの取組を「主な対応策」として整理し、追加の対応策の必要性を検討しています。このように戦略的な自然関連リスク管理を進めています。
- ※5 ENCORE(Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure):https://encorenature.org/en
- ※6 WWF Biodiversity Risk Filter:https://riskfilter.org/biodiversity/home
- ※7 Aqueduct:https://www.wri.org/aqueduct
自然関連課題の評価プロセス
①依存および影響の評価
自然リスク評価ツール(ENCORE)を用いて、バリューチェーン全体における自然関連の「依存」および「影響」を確認し、M以上にスポットを当てたヒートマップ(表1)を作成しました。
表1 バリューチェーン全体を対象としたヒートマップ
②重要課題の特定
まずヒートマップの「直接操業」として「医薬品の製造」の「VH」、「H」、「M」に着目し、当社の直接操業との関連性の高い重要課題として、水資源(依存)、生物資源(依存)、汚染(影響)の3つを特定しました(表2)。
表2 重要課題とその特定理由
| 重要課題 | 特定理由 |
|---|---|
| 水資源 (依存) |
医薬品製造をはじめとする当社の事業活動には良質で十分な量の水が不可欠である。 一方、日本では2025年夏に記録的な高温と少雨が重なり、複数のダムで貯水率が0%に達する事態が発生して節水・取水制限が実施されたり、河川水系で渇水対策本部が設置されたりした。また、米国では一部の地域で慢性的干ばつが継続し、水供給リスクが高まっている。 |
| 生物資源 (依存) |
当社は医薬品原薬、製剤添加物、包装容器に生物資源を使用しており、これらの供給が不安定になると、品質や安定供給に重大な影響が及ぶ可能性がある。 |
| 汚染 (影響) |
当社は創薬研究や医薬品製造で種々の化学物質を使用している。法令違反には至らないものの、この数年の間に軽微な排水トラブルの事例が発生している。 また、医薬品有効成分が環境中に排出されると、その生物学的活性が非標的生物に直接悪影響を及ぼし、生態系の健全性や回復力に影響を及ぼす可能性があり、環境への医薬品の排出源の一つに、医薬品製造プロセスからの直接排出が含まれる。 国連は、英国のオニール・レビューの推計を踏まえ、薬剤耐性(AMR)への対策が不十分なまま耐性率の上昇が続いた場合、2050年には年間1,000万人が死亡する可能性があると警鐘を鳴らしている。抗菌薬の製造プロセス由来の排水や廃棄物として環境に排出した抗生物質が薬剤耐性を引き起こした場合に、広範な感染症の発生の可能性がある。 |
③潜在するリスクの特定
TNFDにおける自然関連リスク分類に基づき、重要課題として設定した水資源(依存)、生物資源(依存)および汚染(影響)について、直接操業における潜在的な自然関連リスクを検討しました。潜在的なリスクを短期(1年)、中期(3年)、長期(10年)の時間軸により、表4で示すように特定しています。自然関連の機会については今後評価を予定しています。
④優先地域の特定
TNFDが求める「優先地域」を特定するため、当社グループの直接操業における生産・研究5拠点が「要注意地域」にあたるかどうかを、Biodiversity Risk Filter および Aqueduct の評価ツールを用いて評価しました。「マテリアルな地域」も考慮の上で表3のとおり全5拠点を優先地域としました。
表3 当社グループ拠点における優先地域の選定結果
| 国名 | 当社グループの生産・研究拠点 | 要注意地域 | 自然関連でマテリアルな地域 | 優先地域 | 関連する重要課題 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 生物多様性にとって重要な地域※8 | 物理的水リスクが高い地域※9 | |||||
| 日本 | 鈴鹿工場 | 〇 | 〇 | 〇 | 汚染(影響) 生物資源(依存) |
|
| 大分工場 | 〇 | 〇 | 〇 | 汚染(影響) 生物資源(依存) |
||
| 総合研究所 | 〇 | 〇 | 〇 | 汚染(影響) | ||
| 大阪研究所 | 〇 | 〇 | 〇 | 汚染(影響) | ||
| 米国 | CPC | 〇 | 〇 | 〇 | 水資源(依存) | |
- ・評価実施は2025年3月
- ※8Biodiversity Risk Filter の 「6.1 Protected/Conserved Areas」または「6.2 Key Biodiversity Areas」が High以上(スコア3.4以上)
- ※9Aqueduct の 水ストレスレベルまたは渇水レベル(ベースラインまたは pessimistic 2030/2050)が High 以上
⑤対応策の検討・実施
③で特定した潜在的な自然関連リスクについて、リスク低減のための「主な対応策」を検討し、現状の取組事例を表4の「主な対応策」として整理しました。 当社グループの直接操業において、現時点で顕在化しているリスクは確認されず、潜在的なリスクにおいても事業継続に重大な影響を及ぼすレベルのリスクは認められませんでしたが、今後は評価の精度を向上するとともに、バリューチェーン上流・下流への評価範囲の拡大を目指します。
| 重要課題 | TNFDのリスク分類 | 期間 | 潜在的なリスク | 主な対応策 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 水資源(依存) | 物理リスク | 慢性 | 中 長 |
水不足による取水制限に伴う工場の操業停止 | 中長期環境目標に「2030年度までに水使用量を2020年度使用量以下にする」(当社単体)を掲げ、水使用量削減の取組を推進(なお、米国CPC の取水量は 連結ベース取水量の0.1%未満であり、極めて少ない。) |
| 物理リスク | 慢性 | 長 | 水質の悪化による上水などの購入コスト増加または自社で精製する際の設備コストや運用コスト増加 | ||
| 生物資源(依存) | 物理リスク | 慢性 | 長 | 生態系の劣化または乱獲により生物資源の供給が不安定化し、調達コストが増加 | 「ビジネスパートナーのためのサステナブル行動指針」において、ビジネスパートナーに資源の効率的な利用や持続可能な調達を要請するとともに、主要なサプライヤーに対する取組状況の調査を実施 事務用品などにおけるグリーン調達ガイドラインの運用 |
| 汚染(影響) | 物理リスク | 急性 | 短 中 長 |
不適切な排水処理による有害物質の水系への排出、事故や災害による有害物質の土壌などへの漏洩に伴う生態系への悪影響 | 主要な塩素系溶媒に対する回収装置を設置し、環境中への漏出を防止 生産および一部の研究拠点からの排水に関し、法令の基準値より厳しい自主基準を設定してモニタリング 緊急事態への対応手順書を整備し定期訓練を実施 |
| 移行リスク | 賠償責任 評判 |
短 中 長 |
不適切な排水処理による有害物質の水系への排出、事故や災害による有害物質の土壌などへの漏洩に伴う地域住民などへの賠償責任や当社への信頼低下 | ||
| 移行リスク | 賠償責任 評判 |
短 中 長 |
「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)」への違反による行政処分や社名公表 | 創薬研究における遺伝子組換え実験において、専門委員会を設置し、規程類を整備して確実な遵守を徹底 | |
| 物理リスク | 慢性 | 長 | 製造プロセスから環境中に排出した医薬品有効成分が河川などの生物に悪影響を及ぼした場合の生態系の健全性低下 製造プロセスから環境中に排出した抗生物質が薬剤耐性を引き起こした場合の広範な感染症の発生 |
排水や固形廃棄物からの抗生物質の排出を低減するとともに、工場排水中の予測環境濃度(PEC)が予測無影響濃度(PNEC-MIC※10および PNEC-ENV※11)未満であることを、当社の原薬製造サイトに対する社内の定期的な自主監査で確認 | |
| 移行リスク | 政策 | 中 長 |
環境汚染を防止するための規制強化に対する対応コスト増加 | 関連する法規制の動向調査および早期対応 | |
- ※10PNEC-MIC:微生物に対する最小発育阻止濃度(MIC)データに基づき算出された無影響濃度
- ※11PNEC-ENV:環境中の生物(魚類・無脊椎動物・藻類)への毒性試験データに基づき算出された無影響濃度
※10、※11 PNEC table: https://www.amrindustryalliance.org/2026-changes-to-the-pnec
リスクと影響の管理
リスクマネジメント推進体制では、年度ごとに国内外のグループ会社を含めた全部門にリスクアセスメントを実施し、その結果を集約して重要なリスクを特定しています。環境安全委員会は、重要なリスクに自然関連の依存または影響に起因するものがないかを確認し、依存および影響、リスクおよび機会、対応策を評価・管理しています。また、環境安全委員会で事業の継続性や財務に大きな影響を及ぼすリスクや機会が特定された場合、リスクマネジメント推進体制に共有します。
取締役会は、自然関連のリスクと機会および対応策に関し、サステナビリティ活動の一部として報告を受け、提言・指示を行います。
指標と目標
当社では、自然関連の依存や影響に関係する指標や定量データを含むESG関連データを「ESGデータ一覧」ページで開示しています。また、TNFDが定めるグローバル中核開示指標については、「ESGデータ一覧」ページに未掲載のデータを収集して本指標に基づく開示の検討を進める予定です。
当社では、中長期環境目標(中期;2024年度~2026年度)を策定し、それらの目標の達成を目指しています。今後TNFD提言を踏まえた取組を進める中で、追加的な目標設定の必要性を検討する予定です。
自然関連の依存や影響に関係する指標や定量データを含むESG関連データは「ESGデータ一覧」をご覧ください。
中長期環境目標(中期;2024年度~2026年度)は「環境目標およびパフォーマンス」をご覧ください。
今後の予定
今後は、評価範囲の拡大、関連情報の精査、機会に関する評価などを進め、開示内容の充実に努めます。また、自然関連の依存や影響を緩和してリスクの低減または機会の獲得に繋がる新規目標の必要性を検討し、必要な場合には目標を策定する予定です。
関連する方針・イニシアチブ
経団連生物多様性宣言・行動指針
当社の取組方針および目標は、「自然共生社会の構築を通じた持続可能な社会の実現」を目指す「経団連生物多様性宣言・行動指針(改定版)」※12の理念と合致しており、当社はこれに賛同しています。
- ※12日本経済団体連合会「経団連生物多様性宣言・行動指針」:https://www.keidanren.or.jp/policy/2023/082_honbun.html
「住友ファーマの森」における「フクロウの森保全プロジェクト」
現在の日本では、森林の維持管理の担い手が不足し、環境保全機能の衰えが指摘されています。とくに竹林の拡大による森林の荒廃は深刻であり、生物多様性の保全に大きな影響を与えていることから、持続可能な森林の保全体制として、行政・企業・地域が協働して再生に取り組む重要性が叫ばれています。
当社は、2015年10月から2020年9月まで、大阪府の「アドプトフォレスト制度(森林養子縁組制度)」を利用し、地域の特定非営利活動法人「神於山保全くらぶ」とともに、岸和田市が推進する環境保全活動である「フクロウの森再生プロジェクト」に参画しました。
当社は、岸和田市三ヶ山町にある0.45ヘクタールの里山林を「住友ファーマの森」として、この地域の生態系ピラミッドの頂点にあるフクロウが生息できる豊かな自然環境を再生・維持することを目的に、5カ年計画によって責任をもって良好な里山としての環境を形成することに努めました。その結果、住友ファーマの森や周辺の森の整備が進み、当社の森に近い場所に設置された巣箱にフクロウが戻り、生態系が戻ってきています。
当社はこの生態系を維持・改善するために、2020年10月から2023年9月まで継続して「フクロウの森保全プロジェクト」として同地域の環境保全活動に取り組みました。
これまでに従業員やその家族が参加した住友ファーマの森の保全活動の状況は、以下のとおりです。
| 年度 | 参加人数 |
|---|---|
| 2023年度 | 60名(一定の効果が認められたので、9月で活動終了) |
| 2022年度 | 63名 |
| 2021年度 | 13名 |
| 2020年度 | 20名 |
| 2019年度 | 128名 |
| 2018年度 | 127名 |
| 2017年度 | 187名 |
| 2016年度 | 166名 |
| 2015年度 | 136名 |
植樹した木と雑草との違いを明確にするために
伐採した竹を活用して添え木を設置(2023年4月)

毎回の活動開始時に活動の目的と
安全対策のための説明を行う様子(2023年5月)

「住友ファーマの森」の中にある池に
伐採した竹を活用して柵を設置(2023年6月)